地域と共に繁栄し続ける銭湯の秘密。昔から変わらない銭湯の役割とこれからの可能性(銭湯 小杉湯)

東京都杉並区高円寺。

高円寺は、若者を中心とした独特のカルチャーと、商店街を中心とした下町のような風情とをミックスしたような町並みが特徴だ。

若者からご年配の方が融合するようにして活気あふれるこの地域の住民を支え、地域の人に楽しんでもらう場を提供している銭湯「小杉湯」と、小杉湯を守り続けている小杉湯二代目店主の平松茂さんを取材した。

小杉湯二代目店主 平松茂

平松 茂
小杉湯二代目店主。1951年東京高円寺生まれ高円寺育ち。学生時代は全国を旅歩き、一時は北海道の酪農家を目指したこともあったが、一般企業に就職。その後、家業である小杉湯を先代から継ぎ、1981年より二代目小杉湯店主として小杉湯を守っている。地域から愛される銭湯を目指し、時にはお風呂場や番台で地域の常連さんたちと話すことが好き。

昔と変わらない銭湯の良さ

小杉湯は1933年(昭和8年)創業。今日まで80年以上に渡り、変わりゆく時代の中で、人々の疲れを癒やし、体と心を清潔にするという「風呂屋」として、銭湯としての役割を果たし続けている。

小杉湯の番台写真

銭湯の顔である番台。一度は番台をやってみたい、と思うのは筆者だけだろうか?

変わるものと変わらないもの

銭湯の最盛期と言われたのは、1960年台後半の行動経済成長期。日本がGDP(国内総生産)二位となり、名実ともに経済大国の仲間入りを果たした頃だ。この頃には、日本全国で現在の三倍以上の数の銭湯が存在していた。ところが、時代の変化に伴い、各家庭にも風呂が当たり前の時代になり、さらには燃油価格の高騰、施設の老朽化、後継者不足など、銭湯の衰退が始まり、さらには近年ではスーパー銭湯や都市部の温泉施設の増加なども相まって、経営難に苦しんでいる銭湯は少なくはない。

そんな中、なぜ小杉湯は地域住民に愛され、地域の住民が家庭に風呂があるにもかかわらず、わざわざ銭湯に足を運びたくなるような存在であり続けるのだろうか。

小杉湯店主の平松さんはこう語った。

番台で語る小杉湯二代目店主の平松さん

ーー確かに、風呂に入るということだけ考えると、家庭の風呂で充分なことが多いです。でも、うちのお客さん、特に常連さんたちは風呂に入りにきているだけではないと私は思います。

ーー例えば、毎日来られるような方は、まず、顔見知りになります。さらに、銭湯ですから、当然裸の付き合いにになります。そのせいか、銭湯に入る前は知らない人だった同士が、風呂から出てくると、仲良くなっていることはしょっちゅうです。中には、いつもこの時間に来ている常連さんがいないとなると、「どうしたの?」などと声をかけあうことも珍しくありません。これは、今に限った話ではなく、昔から続いていることですね。

なるほど。
銭湯は入りにくる人同士が、それぞれの年齢や立場に関係なく、話がはずみコミュニケーションがうまれる場、これが銭湯の魅力でもあり、時代が変われど変わらない銭湯の魅力の1つに違いない。

小杉湯店主の平松茂さんと取材ライターと富士山の絵の前にて

人と人がつながるきっかけの場として

興味深いことに、小杉湯では約15年前から「風呂屋」以外の取り組みにも積極的だそうだ。
それは、銭湯の営業時間外に、落語や演劇やコンサート、最近ではヨガ教室や勉強会や学生イベントなどの「場」を提供すること。銭湯という非日常の面白さに加え、銭湯ゆえに音が反響しやすく、普段通い慣れてどこか温かさも感じる銭湯でのイベントは、通常のイベント会場にはない魅力があり、人気だそうだ。

小杉湯の脱衣所の写真

さらに平松さんはこう続ける。

ーー銭湯で何かイベントをやるとなると、当然普段通っているお客さんたちもイベントのことを知って、興味があるイベントには駆けつけてくれたりします。この前あった話だと、地元のコーラスグループのコンサートを小杉湯でやったのですが、見に来た方も飛び入りで参加して、最後はみんなで風呂場で歌いながら盛り上がりました。このように老若男女のたくさんの世代の人たちが、銭湯という場をきっかけに楽しく地域や地域の住民とつながる。こうした役割も銭湯が担っていけることは本当に私も嬉しい限りです。

小杉湯で開催したイベントの様子

小杉湯で開催したイベントの様子

地域コミュニティとの開口部としての銭湯

確かに、地域の人同士のコミュニティスペースという「場」を提供する銭湯は、銭湯が元来持つ役割の延長線上につながることだと言える。昔は、銭湯という裸の付き合いを通して、地域の年長者が、子どもたちに社会のマナーやルールを躾する機会でもあったそうだ。さらに筆者は、平松さんを取材していく中で、現代に必要とされているであろうもう一歩先に進んだ役割が銭湯に期待されていると考える。それは、銭湯がその地域コミュニティへの開口部になっている、ということである。

小杉湯のギャラリーを入り口から見た写真

奥のギャラリーでは定期的に作品が入れ替わる。普段は風呂上がりに牛乳やアイスを食べる人で賑わっている場所

筆者も経験をしたことがあるが、昔に比べても、地域を移り住む機会が増え、ご近所付き合いがさほど強くなくなった現代において、地域の外からきた”よそ者”が、地域のコミュニティやイベントに入り込んでいくハードルは決して低くない。何十年も続く地域のお祭りや、習慣、文化があっても、その存在を知ることなくその地域を去ることも少なくはない。読者のみなさんの中にも、こんな経験をしたことはないだろうか。

もし仮に、その地域には地域の方から愛される小杉湯のような銭湯があれば、自然と通っていくうちにその地元の人と打ち解け、イベントを知ることができ、参加するハードルも低くなるのではないだろうか。まさに、私が住んでいた地域にもこんな銭湯があれば・・・とつい思ってしまった。

時代の変化と共に、銭湯が担うべき役割も変化していく

最後に、平松さんから小杉湯のこれからの話についても伺った。平松さんによると、従来のコミュニテイぃスペースという場に加え、新しい2つの役割も担っていきたいと話してくれた。

防災拠点としての銭湯

ーー1つは、防災拠点としての銭湯。これは、特に東京にはいつかは来ると言われている首都直下地震のような災害時に、地域の人たちを支える拠点に、銭湯がなりうると私は思います。全ての銭湯がそうであるわけではないですが、小杉湯は、地下水を組み上げ、電気でお湯を沸かし、銭湯として提供をしています。ですから、仮にライフラインが止まったとしても、地下には大量の水があるので、電気さえ使えれば、一度に大量の人にお風呂を提供することが可能です。また、脱衣場などのスペースを工夫すれば、避難場所にもなりえます。こうした地域の防災拠点として、これからの時代に銭湯が担っていくべき1つの役割ではないかと私は考えています。

小杉湯で防災ワークショップを開催したときの様子

小杉湯で防災ワークショップを開催したときの様子

災害時のライフラインとして重要な水を大量に提供できるのが、まさに銭湯とのこと。
先日の熊本大地震でも、銭湯を自衛隊と連携して災害時の応急入浴機会として開放した例もあるようだ。

海外へ日本の文化を発信する場としての銭湯

ーーもう一つは、日本の伝統文化を海外に発信、そして実際にふれあい、体感してもらうことです。実際にここ数年のインバウンド需要の増加もあって、小杉湯にも多くの外国人が訪れるようになってきました。うちは、入れ墨やタトゥーの入っている方でも入浴ができることもあって、外国人の方にもご利用いただける銭湯です。見知らぬ人同士が裸で風呂に入るというのは日本の文化の一つということもあり、物珍しそうに来てくれる方も多いですが、銭湯がきっかけで日本のことや地域のことを知ってもらったり好きになってもらえれば、うれしいですね。風呂上がりにはきりっと冷えた牛乳やビールを飲み、近くのお店で一杯やる、という日本の当たり前の日常を体感してもらえたりしたら面白いかなって思っています。

確かに、これまでのモノの消費からコトの体験を求めてくる外国人が増えていく中で、日本の大衆文化を体感する機会として、銭湯しての可能性は高い。

銭湯×まちづくりのまとめ

一見、斜陽産業と言われている銭湯の存在価値は年々薄まっていくと思われる方も多いだろうが、実は、これほどまでに地域のまちづくりとして重要な役割を担い、さらには災害時の拠点や日本の文化を海外に発信する場といったこれまでになかった役割すらも期待されている。最近では、銭湯をなくさないために力になりたい、という若者や次世代の銭湯経営を担うネットワークが増えていったり、横のつながりも徐々に増えているとのこと。小杉湯の事例に限らず、その地域やその銭湯の文化にあった新しい形の銭湯が増えていきそうである。

ちなみに、これからも注目されていくであろう杉並区の銭湯、小杉湯は、三代目店主として、平松茂さんのご子息の平松佑介さんに代替わりしていくとのこと。親子揃って家業の銭湯を守っていき、高円寺を支えていくその姿にますます注目していきたい。

小杉湯を守る平松家の二世代写真

小杉湯の情報

▼住所
東京都杉並区高円寺北3丁目32−2 小杉湯
JR中央線「高円寺駅」 徒歩6分

▼定休日
毎週木曜日

▼営業時間
15:00〜1:45

▼電話番号
03-3337-6198

▼公式サイト
http://www13.plala.or.jp/Kosugiyu/

▼設備
フロント式入口、ジェットエステバス、日替わり薬湯、ミルク風呂、水風呂
浴場にシャンプー・ボディーソープあり
貸しタオルあり(無料)
貸しバスタオルあり(有料)
駐車場あり(住所:杉並区高円寺北3-14-15)

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ABOUTこの記事をかいた人

Kento Tanaka

まちづくりラボ運営チーム、編集長。北海道出身(1991年生まれ)。東京のベンチャー企業で、企業のWebマーケティングを中心に、企業の採用コンサルティングや旅館の再生などに携わり、その実績は超有名大手企業からベンチャー企業まで多岐にわたる。2016年に地元の北海道で会社設立。若き道産子起業家として、北海道、そして日本の観光を発信している。